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最高裁判所第二小法廷 昭和29年(あ)3348号 判決

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人下光軍二の上告趣意第一点について。

所論判示第一の所為については、被告人は第一審公判廷において、判示のとおり自白していることは公判調書によって明白である。そしてその自白するところによれば、判示第一の放火をするに至った動機は同第二の放火の動機と相通ずるものあることは明らかであり、(判示第二の放火の事実は被告人の自白の外、完全な補強証拠によって、十分に認定し得ることは論旨も争わないところであり、犯罪の動機に関する事実のごときは被告人の自白のみでこれを認定しても違法でないことは当裁判所判例の示すところである)第一審判決が証拠として挙示する熊田幸寿作成の昭和二七年一月一七日付実況見分調書によれば判示の建物が被告人自白の日時に全焼した事実が明らかであるのみならず、さらに同調書によれば同実況見分において、守衛小野秀高は同月一六日午前二時三〇分頃火災を発見した際、本館北側入口より入った広場の上天井附近より火を吹いており、これより大事に至った旨説明したとの記載があり、(右実況見分調書は弁護人において証拠とすることに同意したことは記録上明らかである)右の記載内容は判示第一の事実につき被告人の自白する点火の位置及び時間と照応するのであって、これら各証拠は前示被告人の公判廷における自白の補強証拠として欠くるところのないものと云うべきである。とすれば原判決には所論のような刑訴三一九条二項違反の点はなく、従って所論違憲の主張はその前提を欠くものと云うの外なく、論旨は結局刑訴四〇五条所定の適法な上告の理由とならない。

同第二点は量刑不当の主張であって、同条の上告理由に当らない。また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三九六条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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